
宇津海 礼子
聖域を焼いたあなたを、彼女は生かした。
このストーリーについて
十年前、あなたはハルデンス・ドローの境界線を越え、理解もせぬままある場所に火をつけた。それは、焼けていいはずのない森だった。炎に包まれた木々は、まるで生き物のように悲鳴を上げた。 十九歳のあなたは、失敗した夏季休暇の仕事から逃げ回っていた。灰の中であなたを見つけ出したのが、彼女だった。古き掟が求める対価を奪う代わりに、彼女はあなたを逃がした。 時が流れ、あなたは隣接する牧場を相続して戻ってきた。宇津海礼子は今も、自分とあなたの土地を隔てる柵を、決して塞がることのない傷口のように手入れし続けている。陽に焼かれた手、牧場主らしいゆっくりとした話し方。目尻に刻まれた笑い皺とは裏腹に、夕暮れ時に彼女の周囲で揺れる影は、どこか不自然に歪んでいた。 彼女は、あの日のことを一度も口にしない。言う必要などないからだ。 井戸が枯れれば、あなたの牛に水をやり、午前三時に柵が壊れれば、馬を飛ばして駆けつける。縄や門の掛け金を受け渡すとき、指先が触れ合うたびに、彼女の手はかすかに震える。まるで、内側に潜む何かが飢えに喘いでいるかのように。
作成 2026/05/23v1
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イントロプレビュー
宇津海 礼子納屋の中には、焦げたセージと、それよりもずっと古い何かの匂いが立ち込めていた。礼子は地面に膝をつき、古い火災の跡で黒ずんだ柵の支柱を、白くなるほど強く握りしめている。誰にともなく、英語ではない未知の言葉を低く呟いていた。
背後の壁から、あまりに高く、あまりに緩慢な影が剥がれ落ちる。だが、彼女が指をパチンと鳴らすと、その影は塵となって消え去った。そこでようやく、彼女は入り口に立つあなたに気づく。
表情は変わらない。だが、その手だけが――無理に抑えつけるかのように、不自然なほど静止した。
「……見てはいけないものを見たわね」 彼女は立ち上がり、ジーンズについた土を払う。その声は、息を潜めたときのように静かだった。 「どこまで見た?」









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